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ウラジミール・ソローキン『親衛隊士の日』: 生物ドラッグ、集団アナルセックス、小型ドリルSM、何でもありなDJソローキンによる反権力バイブス

親衛隊士の日


本を読み終わって、「はぁ面白かった」と息をついて、改めて表紙を見て、ようやく気付いた。モチーフが男根と精子じゃねえか。


2028年のロシアは、ツァーリズム(絶対君主制)が復活し、皇帝を頂点とした独裁国家となっていた。国家の反逆者を取り締まる親衛隊(オプリーチニク)の一人、アンドレイ・ダニーロヴィチは、中国製の赤いベンツに犬の首をブッ刺して、"白い壁"のクレムリンがそびえるモスクワを駆け巡る。「兄弟よ、言と事だ!えんやさ!えんやさ!」


ロシアという国では、新しい体制が誕生すると、既得権者の粛清がハッピーセットのオマケみたいについてくる。当然、粛清を伴う恐怖政治に民衆は不満を抱き、その中から体制を脅かす因子が生まれる。やがて因子が萌芽し、旧体制を壊し、新しい体制が生まれ、また粛清が始まる。


ロシア革命、スターリズム、ソ連崩壊。血で血を洗う権力ガラガラポンが定期的に行われる国では、極端な主義・思想が培養される。16世紀のツァーリズムとツァーリを守る親衛隊の復活という未来も、ロシアという国では、果たして夢物語と言い切れない。


『親衛隊士の日』の近未来ロシアでは、自由市場が無くなり、文化が規制され、次々と反体制の人間が粛清される専制政治が行われている。そして専制政治を支えるのが赤いベンツを乗り回す親衛隊(オプリーチニク)である。


親衛隊(オプリーチニク)には絶対的な権力が与えられている。国家の反逆者に対して、家を焼こうが、使用人をぶっ殺そうが、嫁をレイプしようが、とがめを受けない。"言と事"(17世紀に定められた、国家への犯罪を密告するときに用いられた決まり文句)が起これば、彼らはどこからともなく現れて、「えんやさ!えんやさ!」の掛け声とともに粛清を行う。


親衛隊(オプリーチニク)の絆は強い。極小の金色のチョウザメを体内に取り込む集団ドラッグをキめたり、バイアグラを飲んで金玉を光らせながら隊士達の竿と穴を連結させたり、互いの足に小型ドリルで穴をあけたりする。儀式の最中、快感で絶頂を迎える時も掛け声は同じ。「あぁぁぁぁ!えんやさ!えんやさ!


現代ロシアで萌芽する国粋主義的なるもの、ツァーリズム復活への憧憬なるものをモチーフに、ソローキンは極めて詳細且つグロテスクなポートレートを描く。それはロシアの同胞たちに対するソローキンの叫びだ。


「おい、お前ら!国粋主義ってこんなんだぜ!愛国戦隊大ロシアみたいなもんだぜ!だから落ち着けって!」


作中何度も登場する古典文学作品の引用は文学界に対するソローキンの愛のツッコミである。文学の巨人達たちの作品は素晴らしい。でも、作品が古典となって、権威となって、神聖化されると、極端な主義・思想が培養されてしまう。そうなる前に、コンテクストをぶった切って作品をサンプリングして、BPMを変えて、パンチラインを加えて、バイブスをキメてやる。例えば、ドストエフスキーの『罪と罰』ならこんな感じだ。

くそったまげた斧のちんぽころんな一撃がくそ婆ァの脳天にどんぴしゃりと当たったのは、婆ァがくそちびだったおかげだ。婆ァはせんずり最中のくそ餓鬼みたいな声で叫び、急にくそったれな床にまんころげた。それでも、この尻(けつ)の腐った婆ァは、ちんぽをつかんだら放さないその手を、淫売みたいな無帽のくそ頭にあげることはできた…。


こんな感じで、パステルナークも、コンセプチュアリズムも、ロシアン・ロックも、ドストエフスキーも、みんなぐちゃぐちゃにかき混ぜて、超絶技巧で味付けした小説が面白くないわけがない。DJソローキンのサンプリングが織りなす反権力バイブスは、チョウザメドラッグや集団アナルセックスにも似て、脳を甘く溶かしてくれる。


『親衛隊士の日』は既に舞台として脚色されているらしいけれど、こいつを映画にする時は、株式会社カラーに頼もうな。


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