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『マルコムX 』: "ありのままの自分"を見つける物語

マルコムX [DVD]


フィラデルフィアの大学に在籍している時、東海岸の都会の大学らしく、教授陣はだいたい左寄りだった。皆、ニューヨーク・タイムズを購読し、ブッシュ政権の失策を批判し、イリノイ州選出の民主党上院議員にお熱だった。


ベビーブーマー世代が多く、彼・彼女らが共通して経験していたのが公民権運動だった。インテリ学生は多分に漏れず政治運動に身を投じ、黒人の権利を取り戻す一大ムーブメントに熱狂していた。公民権運動ムーブメントの中心で扇動していたのは黒人だったが、その回りで風を起こしていたのは白人の若者だった。ケネディ・ジョンソンが率いる民主党政権時代。政府は公民権運動に同調を示し、全米に広まったムーブメントの高まりは1964年の公民権法の成立へと結実する。


公民権運動は、W・E・B・デュボイスらが設立したNAACPやキング牧師の活動に依るところが大きいが、それにもまして、女性・アジア系・イタリア系といった他のマイノリティ団体が共闘していたことで、国を動かすまでの規模に成長した。「私には夢がある」とスピーチしたキング牧師も、黒人の子どもと白人の子ども、あらゆる人種の子どもが同じ社会で平等に生きていく未来を主張した。


左寄りの教授達はそんなマイノリティ達が手と手を取り合っていた時代を懐かしく回顧するのだが、その中で一点、腫物というか、歯に衣を着せた物言いになる箇所がある。マルコム・Xだ。


NAACPやキング牧師たちが説いた"マイノリティの連帯"をマルコム・Xは真っ向から否定した。彼が主張したのは連帯ではなく自立。そして、黒人の黒人による黒人のための社会。これは"黒人と白人は分離しているが互いに平等である"(separate but equal)という判決を下したプレッシー対ファーガソン裁判に対するアンサーである。


マルコムX』にもたびたび出てくる彼の主張を要約すると、


・黒人は全人類の祖先であり
・黒人は白人よりも優れており
・白人は悪魔であり
・白人は滅びる運命にある


というものだ。奴隷船でアメリカ大陸に連れてきてから400年間、黒人の同胞を苦しめてきた白人が憎い。公民権運動での"マイノリティの連帯"なぞしゃらくさい。マルコムX』の劇中、白人の女学生がマルコム・Xのもとに駆け寄ってきて、「あなたの思想に共感します。私に何かできることはありますか」と言ってきたのを「何も無い」と一蹴する場面がある。(黒人ではない)左寄りインテリ教授たちの輝かしい思い出に落ちる一筋の影はマルコム・Xをはじめとする運動家たちの拒絶にある。


マルコム・Xのイデオロギーは黒人大衆から大きな支持を得た。大衆迎合的と言えばそれまでだが、とにかく、マルコム・Xはカッコよかった。スーツをびしっと決めて、トレードマークの眼鏡をかけて、大衆の前で披露するスピーチは、大衆の心をわしづかみにした。同じ構造を、同じフレーズを、何度も何度も繰り返し、スピードを、声量を、波が押し寄せるように段々段々上げていき、観客のエモーションを本能レベルでかき乱すマルコム・Xのスピーチは、どんなミュージシャンやダンサーも真似できないパフォーマンスだった。


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マルコムX』はマルコム・Xが自分とは何者であるかを見つける物語だ。派手なスーツで着飾り、髪の毛を縮毛矯正して、白人の真似事をして刹那的な生き方をしてきた彼が、イスラム教の導きによって自分が何者かを知る。自分の祖先を、家族を、肌の色を尊く思い、黒人であることを誇りにして生きようとする。黒人であるというアイデンティティーが、究極的に、死の淵へと追い込むことになるのだが、マルコム・Xは必死に抗おうする。それは、黒人の同胞のためであり、家族のためであり、自分のためだ。


晩年のマルコム・Xは、メッカに巡礼し、差別的な思想を転向している。自分が何者であるか、それは"黒人である前に人間である"という、言葉で説明するには余りに単純な答えに行き着く。そして、マルコム・Xは今まで対立していた"マイノリティの連帯"へと歩み寄ろうとする。が、"強大な力を持った先導者は暗殺によって幕を閉じる"という1960年代の運命から逃れることはできなかった。


公民権運動から半世紀も経たず、イリノイ州選出の民主党上院議員が黒人初の大統領となる。彼が険しい顔をすると、ほんのわずかに、マルコム・Xの面影が見える気がする。